良作大豊作の2ヶ月!4作品簡易振り返りレビュー(『ヤクザと家族』『哀愁しんでれら』『すばらしき世界』『あの頃。』)

サスペンス映画ファイル

トルテ

秘密結社M・I・A所属の男。
自称スパイらしいが真偽は不明。
邦画の調査が最近増えてきている。

ミルフィ

秘密結社M・I・A所属の女。
トルテの右腕となる存在。
最近は邦画にも興味を示してきている。

改めて映画調査ファイル区分がこちら

映画調査ファイル区分

S⋯今年最も印象に残った調査

A⋯かなり印象に残った調査

B⋯いってよかったと思えた調査

C⋯可もなく不可もなくな調査

D⋯あまり良くなかった調査

E⋯苦戦を強いられた調査

計り知れない今年の邦画

ミルフィ
ミルフィ

邦画が?あまり想像はつかないのですが⋯。

トルテ
トルテ

ああ。それというのも昨年はこの時期に洋画や韓国映画の勢いがすさまじく、それに反して昨年のこの時期の邦画は『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』『記憶屋 あなたを忘れない』『ヲタクに恋は難しい』等、あまり勢いがあったとは言えないような作品が多かった。だが、今年の邦画は前回紹介した『花束みたいな恋をした』を筆頭に勢いのある作品が多数出てきているんだ⋯。

MISSION

今が熱い邦画群をまとめよ。

現在注目の4作品

ミルフィ
ミルフィ

そこまでですか!?

昨年の惨状から今年になってそんなことになっているなんてにわかには信じ難いのですが⋯!?

トルテ
トルテ

ああ。今回はそんな現在公開されている映画の中でも注目したい『ヤクザと家族』『すばらしき世界』『哀愁しんでれら』『あの頃。』の4作品の調査報告を行っていこう。

1作品目:ヤクザの栄枯盛衰、そしてファミリーの物語。『ヤクザと家族』

ミルフィ
ミルフィ

や、ヤクザ⋯?あの⋯扱っている題材が反社っていうのはどうなんでしょうか?

正直私は怖いです⋯。

トルテ
トルテ

その反応になるのもわかる。俺も鑑賞前はどうなんだか⋯と感じている部分ではあった。だが、実際に見てみると想像していたような任侠映画ではなく、ヒューマンドラマが強い作品に仕上がっていたように思える。

あらすじ

1999 年、父親を覚せい剤で失った山本賢治は、柴咲組組長・柴崎博の危機を救う。その日暮らしの生活を送り、自暴自棄になっていた山本に柴崎は手を差し伸べ、2人は父子の契りを結ぶ。2005 年、短気ながら一本気な性格の山本は、ヤクザの世界で男を上げ、さまざまな出会いと別れの中で、自分の「家族」「ファミリー」を守るためにある決断をする。2019年、14年の出所を終えた山本が直面したのは、暴対法の影響でかつての隆盛の影もなくなった柴咲組の姿だった。

映画ドットコムより引用

道を踏み外し極道として生きた男。社会から排されたヤクザのはかなさ。

ミルフィ
ミルフィ

社会派ですか⋯?ただやはりそんな暴力的な組織に私は共感できるとは思わないのですが⋯?

トルテ
トルテ

そうだな。そこがこの映画で自身が感じた困った部分だ。ヤクザの世界の儚さを描いてはいるものの、もとはやはり反社会的勢力であり多くの人を貶めることで組織として世間にはびこっていたような集団だ。だからこそこの映画を見ているときは感情のやり場に困ってしまった。

だが、そんな思いを持ちながらもこの作品では綾野剛演じる賢治の柴咲組という「ファミリー」の一員としての人生に魅せられてしまう。親がいない中で自分を拾ってくれた柴咲組の組長と出会い、家族がいない中で「ファミリー」という家族に近しいような居場所を手に入れた賢治。だが、その居場所は社会的にはいてはならないような場所だ。だからこそ、この「ファミリー」の中で賢治が感じる強い絆というものが温かく感じるものでもありながら、ふと「ヤクザ」であるということが頭をよぎって困惑してしまう。この「ファミリー」としてのヤクザの描き方は『one piece』の白ひげ海賊団やドン・キホーテファミリーのような印象を抱いたな。

ヤクザであることに感情の行き場が困ってしまうことがあるものの、1999年・2005年・2019年という3つの時代に分けての物語運びは非常にうまかった。賢治の人生に迫りながら家族を描き、そしてヤクザの栄枯盛衰に胸が苦しくなる。そして主題歌の『FAMILLIA』だが、賢治という男を象徴する歌となっているため、エンドロールも必見だ。

この作品を描いている藤井道人監督のこの作品と『新聞記者』は社会派な作品であり、どちらも大胆な世界に切り込んだ作品であり面白いのだが、個人的にはこれと同時に『宇宙でいちばんあかるい屋根』もより注目されてほしいと願う作品だ。この作品では清原果耶という女優の魅力を最大限引きだせており、映像としても美しい描写がいくつもある。さらに上記の2作品とは違うファンタジーな作品であるため、新鮮な藤井監督作品を見ることができるので機会があればぜひ推したい作品だ。

2作品目:この世は生きづらい。『すばらしき世界』

ミルフィ
ミルフィ

これはかなり前からマークしていた作品の調査ですね。役所広司さん主演で脇には長澤まさみさんや仲野太賀さん、さらに監督には『ゆれる』や『ディアドクター』などで映画好きな方々の中にもファンが多い西川美和監督がつとめているという⋯。

前情報からもこの作品の秘めるものがどれだけ大きいものか伝わってきます⋯。

トルテ
トルテ

事前の調査だけでもそれだけ注目度は高い作品だということが伺えるな。

そしてこの作品だが見事に期待以上でありながら現代社会の「今」をえぐる内容となっており、見終わった後の余韻はかなり大きいものだったよ。

あらすじ

殺人を犯し13年の刑期を終えた三上は、目まぐるしく変化する社会からすっかり取り残され、身元引受人の弁護士・庄司らの助けを借りながら自立を目指していた。そんなある日、生き別れた母を探す三上に、若手テレビディレクターの津乃田とやり手のプロデューサーの吉澤が近づいてくる。彼らは、社会に適応しようとあがきながら、生き別れた母親を捜す三上の姿を感動ドキュメンタリーに仕立て上げようとしていたが……。

映画ドットコムより引用

不寛容な社会。そして考えさせられる「すばらしき世界」とは。

ミルフィ
ミルフィ

しかしここがわからないのですが、この作品の中で役所広司さんの演じる「三上」という人物は前科多数の元殺人犯なんですよね?

そんな殺人犯に感情移入なんてできるのでしょうか?

トルテ
トルテ

そうなんだ。確かにこの作品の中で三上という人物が犯した罪やその凶暴性が見えてしまう部分はあるんだが、マクロの視点で見てみると彼のやっていることは善行ではあるんだ。しかし、そのやり方が不器用故に少し最初はとっつきにくい人物のように思えた。

だが、とあるシーンでの三上の取った行動はなかなか自分たちはとれるものではないし、それによって彼の行動は「罪」だけでなく「救い」をもたらしている。ここで「自分がその状況に遭遇したとき」を想定したとき、自分は彼のようには動けない。そこには何も生まれないが救われる人物もいない。ここで「三上と自分達、どちらの方に優しさがあるのか」「とがめられるのはどちらか」という事を考えてしまい、この社会の抱える問題を改めて突き付けられたような気がして考えさせられてしまう。

そして何より主演である役所広司の演技力の高さと表情の豊かさが人間味溢れる三上の良さをよく引きだせていた。また脇を埋める役者である北村有起哉、六角精児、そして特に仲野太賀の温かみのある演技も温かいと思えるような世界観を作るのに貢献していたな。

そして終盤の展開で一気に自分の心はえぐられた。とある事象を前にしての今までの三上らしからぬ行動を目の当たりにし、「三上の生きる選択」に疑問を持ってしまう。そしてラストには『すばらしき世界』というタイトルの意味が頭から離れない。

3作品目:シンデレラストーリーダークサイド『哀愁しんでれら』

トルテ
トルテ

この作品についてはある話が有名だがそれについては確認済みか?

ミルフィ
ミルフィ

私のリサーチ能力を侮ってはいけませんよ?この作品の主演である土屋太鳳さんがこの作品への出演を3回も断ったという話ですね?それだけアプローチをかけて出来上がったある意味監督の理想のキャスティング。そんな作品ですがどうでしたか?

あらすじ

市役所に勤める小春は平凡な毎日を送っていたが、ある夜、不幸に見舞われ全てを失ってしまう。人生を諦めかけた彼女の前に、8歳の娘を男手ひとつで育てる開業医・大悟が現れる。優しく裕福で王子様のような大悟に惹かれた小春は、彼のプロポーズを受け入れ、不幸のどん底から一気に幸せの絶頂へと駆け上がるが……。

映画ドットコムより引用

好き嫌いがあまりにも分かれすぎる問題作。家族の沼で狂い始める一家。

トルテ
トルテ

この作品だが、邦画ではあるもののかなり内容は過激なものになっている。たった一夜にして絶望のどん底に堕ちた小春が超ハイスペックエリート男性との出会いで一気に幸せを掴むというまさにシンデレラストーリーが描かれる。その光景は見ていてほほえましい限りだ。

ミルフィ
ミルフィ

えっと⋯、それのどこが過激な内容なんですか⋯?

シンデレラストーリーだなんて、うらやましい限りじゃないですか⋯。

私だってそんな出会いに巡り合いたいですよ⋯?

トルテ
トルテ

ほう?この映画を最後まで見てもそういったことが言っていられるか見ものだな。

この作品の本番は中盤からはじまる。見事誰もがうらやむようなエリート男性と結婚して始まる新婚生活。しかし、結婚生活が始まってからどんどん生活の中にはノイズが生まれだす。

この作品はとてつもなく賛否が分かれる作品となっている。というのも、飛躍しすぎたストーリー運びや撒くだけ撒いて回収されない伏線、そしてストーリーの現実離れの仕方とあまりに気分の悪くなるその内容だ。見ていてどんどん心も沈んでいく。だが、そういった弱点が多く挙げられてしまう作品ではあるものの、1度コミカルに人生を沈ませて一気に幸せな物語に持っていき、その中に徐々にノイズを生んでいきその末には堕ちるところまで一気に堕とす構造は面白い。

「あんな親にはなりたくない」言葉にするのは簡単だが、子供の悪意なき非情な行動やエリート思考の夫の価値観にさらされることで自身もその忌み嫌っていた人間になっているという恐怖が終始たまらなく気持ち悪くぞくぞくとさせられる。「たった一晩踊っただけの、靴のサイズしか知らない男性と結ばれる」というシンデレラの物語の恋愛に異議を唱えるような描き方がなされており、誰もが知る童話に近しい話をここぞといわんばかりに真っ黒に染める悪趣味さが刺さる人にはなかなかに刺さる作品となっている。

また、この作品のパンフレットの中で、作中でうやむやになってしまった部分が監督の口から語られているため、鑑賞後にパンフレットを買うとストンと腑に落ちる部分もあったな。

4作品目:くだらないかもしれないが、それも確かな青春だ。『あの頃。』

ミルフィ
ミルフィ

この作品、ハロプロにすべてをささげていた男性たちのストーリーという事ですが、私あまりハロプロについては詳しくないんですよね⋯。松浦亜弥さんも「いぇ~い!めっちゃ!ホリデイ♪」のフレーズぐらいしか印象にありませんし⋯。

トルテ
トルテ

2000年代のアイドル文化を彩ったのはハロプロのアイドルグループだといっても過言ではない。現代では乃木坂や欅坂等の坂道シリーズと呼ばれるアイドルを筆頭に様々なアイドルグループが存在しているが、今回はそんな2000年代のハロプロ全盛期を生きた男たちの姿を描いている。

あらすじ

大学院受験に失敗し、彼女もお金もなくどん底の生活を送る青年・劔。松浦亜弥のミュージックビデオを見て「ハロー!プロジェクト」のアイドルに夢中になった彼は、イベントで知り合ったコズミンら個性的な仲間たちとともに、くだらなくも愛おしい青春の日々を謳歌する。しかし時は流れ、仲間たちはアイドルよりも大切なものを見つけて離れ離れになっていく。そんなある日、コズミンがガンに冒されていることを知った劔は、かつての仲間たちと再会を果たすが……。

映画ドットコムより引用

ヲタ活に酔狂した全ての人々に捧げる回顧録。くだらなくとも色褪せぬ日々。

ミルフィ
ミルフィ

うーん⋯。しかしやはりハロプロの話となるとあまり世代ではない私にとっては退屈なように思えますね⋯。「嵐」を筆頭にジャニーズを追いかけた経験ならあるのですが⋯。

トルテ
トルテ

それならばこの作品を楽しめるかもしれないな。

この作品に関してはハロプロ全盛期を生きた人であれば120%楽しめるような作品だが、ハロプロの時代を知らなくとも、ヲタ活に耽った経験がある人ならそういった記憶が呼び起こされて楽しめる作品になっている。

男たちの物語ということでそのばかばかしい会話の中には荒っぽい表現なども含まれているが、個人的にはそんな他愛もない会話にくすっと笑えたり、ラストにかけてそんな会話が尊いものに感じるようになっており感情が高ぶったな。


そしてこの作品の中で松坂桃李演じる劔がハロプロにのめりこんだそのきっかけは「松浦亜弥」だった。だが、映画が進むにつれて彼女がストーリーでの重要な話題に上がってこなくなっている。ハロプロにのめりこんだ男とハロプロの物語ならばここはより見せてほしいと思う部分ではあったが、この作品では「ハロプロを通して出会った仲間」にフォーカスがあてられている為、そういった構成にすることで「趣味との距離感は年月が経って変化していくものの、そこで得た大切な仲間の大切さの普遍性」を描いているように思えたな。

そして今回の助演として、『すばらしき世界』でも見事な演技を披露した仲野太賀がまたもいい演技をしていた。ネット弁慶で扱いが難しいような人間なものの、コミカルな一面も内包しつつ、どこか憎めないキャラに仕上がっていた。今年はまだ始まったばかりだというのに仲野太賀の活躍が止まらないという印象だ。

まとめ

トルテ
トルテ

と、まあこれぐらい骨のある作品が今の邦画に多くなっている。

しかも、つい最近公開された『あのこは貴族』もかなり注目度の増してきている作品となっている。俺はおそらく今後この作品の調査にもむかうことになるだろうな。

ミルフィ
ミルフィ

これは確かに邦画の勢いに注目したくなりますね。
最近じゃ新型コロナの影響で多くの洋画が延期になってしまっているので、これぐらい面白い作品の多い今は最高のタイミングとも言えますね。

トルテ
トルテ

そしてファイルに関してだが、

『ヤクザと家族』『すばらしき世界』はA
『哀愁しんでれら』はA~B
『あの頃。』はBのファイルに保存しておいてくれ。

ミルフィ
ミルフィ

かしこまりました。今後はこんなにもため込まないようにお願いします!

NEXT MISSION

今年のアニメーション作品の勢いを調査せよ

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