(ネタバレ半)巨匠からの挑戦状『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』調査。

SF映画ファイル

※改めまして映画調査ファイルの区分はこちら。

トルテ
トルテ

だ、ダメだ⋯。

ミルフィ
ミルフィ

ど、どうしたんですか!?その傷の数々!?

トルテ
トルテ

今回の調査だが、かなりの曲者で全貌を掴めなかった。

ミルフィ
ミルフィ

そんな⋯!?ではわかることだけでも話してください。

トルテ
トルテ

すまないな。今回は俺の憶測が多いかもしれないが、それでもいいか?

ミルフィ
ミルフィ

大丈夫です!情報は武器!ターゲットの全貌について不明なら尚更です!

『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』

そう遠くない未来。人工的な環境に適応するため進化し続けた人類は、その結果として生物学的構造が変容し、痛みの感覚が消え去った。体内で新たな臓器が生み出される加速進化症候群という病気を抱えたアーティストのソールは、パートナーのカプリースとともに、臓器にタトゥーを施して摘出するというショーを披露し、大きな注目と人気を集めていた。しかし、人類の誤った進化と暴走を監視する政府は、臓器登録所を設立し、ソールは政府から強い関心を持たれる存在となっていた。そんな彼のもとに、生前プラスチックを食べていたという遺体が持ち込まれる。

クライムズ・オブ・ザ・フューチャー : 作品情報 – 映画.com (eiga.com)より引用

あらすじはこんなところだ。

痛みを感じなくなった世界。加速進化症候群という病気によって、体内で新たな臓器を生み出すことができるソール。彼の臓器をパートナーであるカプリースがタトゥーを入れて摘出するというショーが流行る世界で、そのショーが政府や臓器登録所に目をつけられてしまう。

そんなある日、道端で出会った男が「プラスチックを食べていたわが子の遺体を解剖してくれ」という依頼が持ち込まれることで物語が動き出すというのが全体の流れだ。

調査の手ごたえ

トルテ
トルテ

わからない。

一体何が起こったのか、理解が追いつかなかった。

『ヴィデオドローム』や『裸のランチ』等、数々の難解でありながらも独特のエロゴア入り乱れるボディ・ホラーの世界観でカンヌ国際映画祭など、その他様々な賞レースにも名を連ねることが多い鬼才デヴィッド・クローネンバーグ監督。

そんな彼の約9年ぶりの最新作というこの作品。しかし巨匠が仕掛けてきた問題提起は俺には読み解きがたいものになっていた。

クローネンバーグ印の官能的表現とエグみのある世界観は健在。今までの作品も難解さは孕んでいたものの、ある程度フィーリングで楽しめるような画づくりには俺も感嘆したものだ。だが今作は監督の世界が画面一面に広がるものの、脚本がその画面を覆いつくすぐらいの難解さのため咀嚼・消化しきれなかった。深刻な胃もたれを起こしたような感覚だ。

彼のアートに乗せた表現をどれだけ拾えるかが作品の好みの分かれ目となるため、鑑賞の際は疲労を完全に取り除き、脳の解像度が完璧な状態での鑑賞を推奨する。一筋縄ではいかず、面白いかどうかで言われると素直に頷けないが、少しでもハマれば多くのシーンが脳裏に焼き付くだろう。

調査ポイント

  • 進化を描いた作品
  • クローネンバーグ監督のボディ・ホラーの真髄
  • アート×エロス×環境問題

というわけで1つずつ見ていこう。

進化を描いた作品

トルテ
トルテ

この作品は進化について描いた作品だ。痛みのなくなった世界において進化を遂げた人間の人生がそこにある。

ミルフィ
ミルフィ

痛みのない世界ですか⋯。

トルテ
トルテ

そう。異世界のような感覚を憶えるが、この進化という問題は現実にも迫っているかもしれん。

クローネンバーグ監督が今回の作品のテーマにしたのは「人類の進化についての黙想」。
人類が今までとは違った環境を作り出してしまった故に、そのプロセスを制御する必要ができた世界を描いていると監督自身は語っている。

実際に調査したところ、本作が人類の進化をテーマにしているのは自明であった。
この作品には進化についてのキーマンとなる人物が2人出てくる。1人は主役であり「加速進化症候群」という病気を患い、日々体内で新しい臓器が作り出される体質のアーティスト・ソール。

そしてもう1人は生前からプラスチックを食し、その姿が気味が悪いという事で実の母親により殺された少年だ。

この作品ではその2人をめぐりそれぞれの進化への執着が描かれている。進化を神格化する父親、拒絶する母親、魅了される女性、アートとして大勢に披露するソールのパートナー等多くの人間が進化というものを中心に話を展開するためにうまく機能している。

だがこの作品をフィクションとして片づけることができなくなっているということも事実だ。2022年3月、22人を対象とした実験の中で、対象者のうち17人の血液からマイクロプラスチックが検出されるといった研究があった。研究についての詳細は下記URLのサイトが参考になる。

マイクロプラスチック、人間の血液内で発見される…その影響は今のところ「何も分かっていない」
科学者たちは人間の血液の中からマイクロプラスチックを発見しました。その影響については「何も分かっておらず、ほとんど暗闇の中にいるのと同じだ」とある科学者は述べています。

その影響さえ不明確ではあるものの、コロナ禍の到来も含めて人間は環境に適応するための進化が必要ないとは言い切れない立場に立たされていることを再認識させられるな。

クローネンバーグ監督のボディ・ホラーの真髄

トルテ
トルテ

だが全くもって置いてきぼりになったわけではない。監督が放つボディ・ホラーの造形は魅力的だ。

ミルフィ
ミルフィ

確かにこの監督さんの持ち味ですね。観たことのない、想像しがたい映像を突き付けてくる感じ!

トルテ
トルテ

ああ、だからこそ完全にノックアウトは免れた⋯。

全体的に概念的でつかみどころのなさが目立つこの作品だが、難解故に全く楽しめないかといわれるとそんなことはない。クローネンバーグ監督の魅せるボディ・ホラーのエロティックでありながら禍々しさも感じる数々の造形は脳裏に鮮明に焼き付くインパクトを有している。

ポスタービジュアルの段階でヴィゴ・モーテンセンの背後にまとわりつくように見えるなにやら白い物体、これは近未来での食事を正しい姿勢で行なうための椅子「ブレックファスター・チェア」というものだ。

こういった奇怪なビジュアルで異様な機能を持つアイテムが作中では生活必需品となっており、リアルと乖離した世界を演出している。

他アイテムでいうと、タトゥーを施した臓器を取り出すために使用される、お腹を開くための手術道具のサークや正しい眠りの姿勢のために最適な位置に傾きなどを自動調整するベッドのオーキッドベッド等、往年のクローネンバーグ監督作品が放ってきたビジュ爆発の造形が彼の鬼才たる所以を見せつける。

そんな中で俺のいちばん印象に残った部分は冒頭の少年の演出だ。
彼は海から帰ってきて歯磨きをしたのち、ゴミ箱を掴んで顔を隠し始めた。その時何をしていたのかが分かった時の映像はショッキングであったな。

この時点で俺の思考回路は一時停止を強いられ、この世界観に追いつけなくなってしまった。話の内容に追いつけなくとも、随所にあるゾクゾクさせられる不気味なビジュアルは俺を楽しませてくれるいい要素であった。

アート×エロス×社会問題×環境問題

トルテ
トルテ

だがこの調査、ただ尻尾を巻いて帰ってきたわけではない。
何を言わんとしているのか、ニュアンスだけは拾ったつもりだ。

ミルフィ
ミルフィ

なるほど、ではお聞かせ願いましょうか?あまり期待はしてないですが。フフッ⋯。

トルテ
トルテ

酷い言い草だな⋯。

この作品は監督の映像力を細部まで堪能できることもあり、複雑に入り組んだ内容をとらえきれなくても世界観さえハマれば深くまで刺さる可能性を秘めている映画だ。

自分自身この作品については本質をとらえきれていないように感じるが、これは進化を軸に据えながらアートとエロス、環境問題を描いた作品ではなかろうかと仮定づけた。

まず作中でアーティストとして臓器を生み出すのはソールであり、それにタトゥーを入れて芸術として完成させるのはパートナーのカプリースだ。
ソールが新しく生み出す臓器を作中では「内なる美」と形容していたが、これは映画製作によく似ている。

監督が映画のアイデアを創出し、それを多くの映画スタッフが形にしていく。尚、作ったとしてどれだけのものが後世に残るか不明瞭だ。それでもこれは、創作を続けるという彼のアートに対する決意の表れだ。

そして、いくら人類が進化しようとも人間の性への本能は変わらないということも近未来独特の官能的シーンの作りこみからみせようとしていたのではなかろうか。

この物語は最終的に進化を強要することとなった環境で我々はどう生きるのかを問うているように受け取れ、この社会への憂いと進化の悲哀を感じる結末に収束する。
だが俺がここまで書き連ねてきたことは本作の前には無力。この記事を読んだ人はその目でこの作品を調査して欲しい。

最後に

トルテ
トルテ

以上が今回の報告だ。「百聞は一見に如かず」、これは他の工作員に引継ぎが必要だな⋯。

ミルフィ
ミルフィ

まあそんなときもありますよ。
次です次!パキッ⋯ポリポリ⋯。

トルテ
トルテ

そうだな⋯。⋯ん?ミルフィ、お前が食べてるそれ⋯。

ミルフィ
ミルフィ

あ、気になります?本部から送られてきた原産国不明の珍しい紫のチョコなんです!

トルテ
トルテ

⋯⋯⋯まさか、⋯な?

果たしてチョコの正体はなんなのか⋯。

『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』にその答えはある。

調査結果:ファイルBに保存

コメント

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