やばいババアの前日譚『Pearl(パール)』調査。

ホラー映画ファイル

※改めまして映画調査ファイルの区分はこちら。

ミルフィ
ミルフィ

もー嫌!辞めてやるこんな仕事!

トルテ
トルテ

突然なんだ?

ミルフィ
ミルフィ

この前の報告書、やり直しですって。私は完璧にまとめてます⋯!

トルテ
トルテ

殺気立ってるな⋯。その考えが捻じ曲がらなければいいが⋯。

ミルフィ
ミルフィ

捻じ曲がるって?何のことです?

トルテ
トルテ

今回調査報告する映画のようになるなという事だ。

『Pearl(パール)』

ある日、父親の薬を買いにでかけた町で、母親に内緒で映画を見たパールは、ますます外の世界へのあこがれを強めていく。そして、母親から「お前は一生農場から出られない」といさめられたことをきっかけに、抑圧されてきた狂気が暴発する。

Pearl パール : 作品情報 – 映画.com (eiga.com)より引用

あらすじはざっとこんなところ。

田舎に住む少女パールが銀幕スターを夢見ることにより起こる不幸の連鎖を描いている。

『Pearl(パール)』とは?

  • A24製作の『X』の前日譚
    今作は1979年のテキサスを舞台にポルノの自主映画製作に来た3組のカップルが、撮影場所を借りるものの、その家が高齢者殺人鬼夫婦の住む家で、次々とその毒牙にかけられるというA24スタジオのスプラッター作品『X』の前日譚という立ち位置だ。

    前作で殺人鬼夫婦のパールという婆さんの60年前、ダンサーを夢見る若き女性だった頃の人生を描いている。

    前作ではなんの躊躇もなく次々と映画撮影に来た人間を惨殺してきた彼女が如何にして恐ろしい殺人鬼になったのか。その様子が描かれている。
トルテ
トルテ

去年夏公開した『X』からの続編製作の早さは意外だったな。

  • A24初の三部作構成
    今作はA24初の三部作構成となっており、今作は『X』の次にあたる2作目となっており、現在三部作目となる『MAXXXINE(原題)』の製作も進んでいる。

    恐らく原題からして『X』での主役であったマキシーンの後日談になるかとは思うが、こちらからも目を離せない
トルテ
トルテ

A24の三部作、今後他の作品で展望するのかも注目だ。

  • あのマーティン・スコセッシ監督もご満悦
    今作について、『グッドフェローズ』や『キング・オブ・コメディ』などのギャング映画やクライム映画にて、その鮮度の高い暴力描写で知られるマーティン・スコセッシ監督は今作を、

    「ワイルドで魅力的。我々をもてあそぶ傑作!」

    というように評しているほどだ。
    暴力映画の巨匠たる彼にそこまで言わしめる本作。注目しないわけにはいかないだろうな。
トルテ
トルテ

風の噂ではホラー初のオスカーも囁かれているのだとか。

ここがすごい!

  • 不気味を極めた想像以上のミア・ゴスの怪演
  • 廉価版『JOKER』、救いのない『Coda あいのうた』。
  • 閉塞感からの解放、眠れる狂気の暴発

というわけで1つずつ見ていこう

不気味を極めた想像以上のミア・ゴスの怪演

ミルフィ
ミルフィ

あれ?ミア・ゴスさんがキャスティング?確か『X』でマキシーンの役をやってませんでしたか?

トルテ
トルテ

ああ。だが、彼女は前作では主人公のマキシーンだけでなく老婆パールを一人二役で演じていた。

今作でのミア・ゴスの働きが大半を占めている。彼女は今回主演として若き日のパールを演じるだけでなく、脚本とエグゼクティブ・プロデューサーにもその名を連ねている。主役でありながら舞台裏でも仕事をこなす三刀流だ。

そんな主演の彼女が深く関わっているからか、映画全体もパールの魅せ方をよくわかっている。

前作でポルノ映画を通して「Xファクター(未知の存在)」としての大女優になることを目指したマキシーンと、過去に「Xファクター」になれず夢に敗れたパールが対象的に描かれていたんだが、今作ではそんな彼女の若い頃の姿がマキシーンの姿に重なるように描かれていた。

スターへの憧れ、自分の才能への根拠なき自身、自身の夢を阻むものには暴力で決着を。
こういった思想が強く、そういった意味でリンクする両者にミア・ゴスの怪演が一気に狂気を付与する。

殺戮を繰り返しつつも、終始純粋無垢な女性であるかのように思える平静を装う不気味さ、自分の行いに対する罪悪感の欠落、そしてラストには名状しがたい表情の長回しがあるのだが、そのインパクトは鮮烈に記憶に残るレベルだ。それをテクニカラー調の質感の映像で見せられる。狂気の沙汰だ。

廉価版『JOKER』、救いのない『Coda あいのうた』。

トルテ
トルテ

今作の夢見る女性パールは夢破れ狂気が覚醒する様子は『JOKER』さながらだ。だが、あそこまで気分の沈む堕ち方はしない。

ミルフィ
ミルフィ

『JOKER』は確かに調査後、かなり引きずる内容でしたね⋯。

トルテ
トルテ

ああ。だが、あそこまでの引きずり方はきっとしないだろう。

今作の主人公パールが残虐無比のヴィランになる様子はホアキン・フェニックスの怪演で話題になった『JOKER』と似ている。

だが、JOKERと決定的に違うのは「人間の悪意が最悪のヴィランを生み出した」という色がない部分にある。

『JOKER』では気が弱くも優しい人間であったアーサーが人間の悪意にさらされ、信じていた人間からの裏切りを受け、ヴィランの道へと堕ちたが、今作にはパールにとって明確な悪人はいない。

いるとすれば必要以上にパールの行動を制限する母親だが、その邪悪の幕引きはあっけなく、壊れるほどの苦痛としては弱い。
故に「生まれるのが必然だった殺戮モンスター」というのがおそらく本作のパールの本質だ。

そしてもうひとつ注目したいのは、『コーダ あいのうた』という作品との対照的な立ち位置だ。

コーダは、聾啞の家族のもとに生まれた健聴者のルビーが「歌いたい」という夢に向かい挫折を繰り返しながらも突き進む話なのだが、家族から夢に反対されていたり、漁業を家業とする家庭の娘だったり、家族が障害を抱えており、それが夢の障壁となっていたりと、主人公ルビーの立場はある意味パールとも似ている。

ルビーもパールも夢を叶えるために新しい居場所を見つけようとしていたのだが、ルビーは家族とのはざまで揺れ動き、歌についても驕らずに学校の先生の厳しいレッスンを受けながら成長していくのだが、パールにはそれがない。

彼女は家族と向き合うようなことはせず、「Xファクター」であることにゆるぎない自信を持っていた結果、夢に破れ、自身を理解しない者や邪魔になるものを悪とみなして排斥する過激な思想を振りかざす。

向き合い方が違えば本作もハッピーエンドになった可能性があったと考えると、それはそれで面白い。

閉塞感からの解放、眠れる狂気の暴発

ミルフィ
ミルフィ

パールはディズニープリンセスのように行動を制限されたヒロイン的立ち位置なんですよね?

トルテ
トルテ

そうだな。だからこそ息苦しい展開は多く、序盤の閉塞感は程よい居心地の悪さを演出していた。

先程の項目でも記載したように、本作で唯一本当のヴィランともいえる存在がパールの母親だ。

彼女は障害を持つ父親の介護に日々明け暮れており、夫が働けない現状から貧しい生活を強いられ、それ故にパールに度を越えた倹約や行動を制限する暴君っぷりは、食卓を囲んでる最中、いつ爆発してもおかしくない狂気をはらんでおり、こちらも本作の恐怖ポイントだ。

そんな母親だが、彼女も彼女なりに「あなたのことを考えて」という事は口にするのだが、押し付け甚だしく全く響いては来ず、毒親のお手本のような母親だ。

そんな母親に育てられ、貧しい家庭環境と感染症や自分達ドイツ系移民の迫害される可能性から人との接触を極力遮断されることを強要され、自身の夢への希望を抑圧していたことも、彼女の狂気をずっと育ててきた一因であるようには俺は感じた部分でもある。

冒頭で、パールはガチョウを「夢を語る自身を非難するような目でみた」という被害妄想甚だしい理由で、農用フォークで刺し殺してしまう。


この時点で彼女が最初から狂気を孕んでおり、「生まれるのが必然だった殺戮モンスター」といえるが、冒頭のシーンに至るまでにも、彼女はこの母親からの厳しいしつけを受けていたことを考えると、十分狂気がここまで育つ温床はあったという風に思える。

そして彼女の狂気は母親を殺してから暴発し、義理の妹の親が施しとして玄関先において、そのまま腐ってしまった豚に沸いた蛆のように無関係の人間を巻き込んで増殖していく。この様子はたまらなくゾクゾクとさせられた。

『キング・オブ・コメディ』等抑圧された衝動が解放される作風の多いマーティン・スコセッシ監督だからこそ、本作も気に入ったのだろうか?

そして、全てのしがらみから解放された後の彼女の清々しいダンスシーンも見どころの1つ。戦争すらも自分のステージを彩る要素として描き、踊り狂う彼女の姿は解放感にあふれており、それまでの母親により強いられていた閉塞感を吹き飛ばす清々しさがあったな。

MIA的映画調査提案

  • 『X』
    言わずもがな、本作含む三部作の第1作目だ。パールがこの作品から歳を取り、老いながらも剥き出しにする狂気を『X』で楽しまないのは勿体ない。最強婆さんとワニの絆も存分に堪能できるので、未鑑賞であれば是非1度は観ておきたい作品だ
  • 『Coda あいのうた』
    この作品のルビーはまさしく家族とちゃんと向き合い夢に向かってひたむきに努力を重ねたパールだ。
    名前も両者ともに宝石の名前というのも面白いが、夢への姿勢の違い等、狂気なし純度100パーセントのハッピーエンド版パールを堪能した気分になれるのでオススメな作品だ
  • 『JOKER』
    バットマンの宿敵であり最恐のヴィランであるジョーカーの誕生譚であり、主演のホアキン・フェニックスの演技も輝いている作品だ。
    夢見ていたステージに立つことができず、思想が捻じ曲がっていきヴィランとしての狂気が完成されていくテイストは似ている。
    本作のように、どんどん狂気が浮き彫りになる映画が好きならオススメだ。

最後に

トルテ
トルテ

以上が今回の調査だ。

ヴィラン誕生譚としてはどんどん思想がゆがんでいく様子が薄かったことやゴア描写も抑えめだったのが惜しいところだったな。

ミルフィ
ミルフィ

今年だとミーガンもホラー描写が抑えめでしたね。
とはいえ、その方が万人に見やすい作風にはなりますよね。

トルテ
トルテ

確かにホラーは敬遠されがちだが、こういった描写がマイルドだととっつきやすいという利点はあるな。

ミルフィ
ミルフィ

私も得意な方ではないですが、この2作は見れそうと思いました!しかし、この三部作はどんな着地をするか見ものですね。

調査結果:ファイルB+に保存

コメント

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