※改めまして映画調査ファイルの区分はこちら。
映画調査ファイル区分
SS⋯生涯ベスト入りの調査
S+⋯大傑作の調査
S⋯傑作の調査
A+⋯秀作の調査
A⋯良作の調査
B+⋯佳作の調査
B⋯好みではある調査
C⋯可もなく不可もなくな調査
D⋯微妙な調査
E⋯苦戦を強いられた調査
いよいよ2023年も半年が経ちましたね。
半年の調査ご苦労様です。
そうだな。では今一度上半期の調査を振り返っていこうか。
そうですね。では今年の調査ファイルを振り返っていきましょう。
上半期の総評
アニメと洋画が激戦区!対する邦画がおとなしすぎる!
これにつきます。
今年の作品群の調査ファイルの分類は以下の通りです。
映画調査ファイル
SS⋯0本
S+⋯0本
S⋯2本
A+⋯12本
A⋯9本
B+⋯8本
B⋯6本
C⋯6本
D⋯8本
E⋯2本
特別枠調査⋯2本
A以上が高満足度を得られる調査のボーダーライン。尚、2つほど特別枠調査という、このファイル部分では括れない作品もありましたが、両作品ともA以上の調査内容でした!
総調査本数は55作品。A以上の比率はおよそ45%近くと我々の例年の調査の中では比較的高めの水準をマークしています。
なので比較的取れ高は上々であったものの、不満点が2つ。
①期待の続編、新作の調査が悉く惨敗
②A寄りのA+が多い
①については今年は本当に酷かった。
A+以上は固いと考えていた『ザ・フラッシュ』や『シン・仮面ライダー』は軒並みB未満。魔女やエスターの続編も期待値は高かったものの、上半期ベストにはほど遠い⋯。
とはいえ、『Search2』や、後述する『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーvol.3』等、しっかりと面白い作品もあったのでそこは補足しておきます。
②についてはフィーリングの問題ですが、鑑賞時は「A+が順当!」と瞬間的余韻は強いものの、なかなか余韻が持続しない調査が多いように見受けられました。
しかし!どの調査もしっかりと興味深いものがやはり多い!
前置きが長くなりましたが、上半期の最高の調査を振り返っていきましょう!
10位 キラーカブトガニ
カブトガニの新時代到来!
いやあ、あほくさい。王道でベタな話ながらも面白い。
こちらは放射線の影響で人食い動物と化したカブトガニに、車椅子の少年と仲間たちが立ち向かうという話。
完全な偏愛調査枠ですね。
タイトルからしてB級映画のにおいがするのはもちろんのこと、キャッチコピーの迷フレーズも大渋滞!「サメの時代は終わった」などという突然のサメ映画への宣戦布告が既にこの作品の曲者間を強めています。
そして、内容は監督が楽しんで撮ってる感じが伝わってきてまあ面白いんです。
ランボーオマージュのような衣装が出てきたり、カブトガニがDJをしたり日本の特撮映画が始まるなんて思いませんよ⋯。
主役の車椅子少年が歩けない自分にコンプレックスを抱えていたものの、その優れた頭脳という武器でカブトガニに立ち向かうという「彼だからこその役割」を強く描いているのも好印象でした。ちなみにぶっとんだストーリー展開はご愛敬。
B級のお手本のような作品です!
調査結果:ファイルA+
9位 聖地には蜘蛛が巣を張る
信仰と正義を今一度問う!
2000年から2001年に、イランのマシュハドで実際に起こっていた「スパイダー・キラー」という殺人鬼による連続娼婦殺人事件を描いた作品です。
ハッキリ言いますと、ヘタなホラー映画よりも数倍怖いです。心霊や怪奇現象で恐怖を煽る映画は虚構であり、「来るぞ!」と思えるのでまだ優しい。日常に潜む悪意、これが怖い。
この悪意をこの映画が鮮明に映し出せるのは殺人鬼側の視点でも物語が展開されるからです。
この殺人鬼はジョジョ4部の吉良吉影のようにすんなりと日常に溶け込んでいる。されど、その凶暴性も何度も垣間見えてゾッとします。
更に恐ろしいのは信仰を重んじ、ミソジニーの風潮も強いイランの国民性がそんな殺人鬼を英雄として祭り上げるところなんです!
信仰の都合のいい解釈で、殺人を「浄化」という言葉にすり替え、それを国民が正当化する。
『DEATHNOTE』のキラ崇拝のようなことが起こっていたという現実、第2のスパイダー・キラーの現れるかもしれない恐怖に旋律します。
狂気は意外と身近にあるかもしれません⋯。
調査結果:ファイルA+
8位 フェイブルマンズ
大監督の人生ここにあり!
もはやレジェンドというのがふさわしい映画監督スティーヴン・スピルバーグが自身の人生を投影した自伝的作品。
サミー・フェイブルマンという映画少年の、映画に出会う少年時代から映画の仕事に携わるまでの半生を描いています。
これは今後スピルバーグ監督の作品を見るにあたってバイブルにもなり得る重要な作品です。なぜなら、ここで描かれているエピソードが彼の映画のルーツになっているから。
彼が幼少期に魅せられた映画での「衝突」、ナチを心の底から敵視する作風、「未知との遭遇」を好む理由がこの作品から感じ取れました。
また、今年別で調査した『モリコーネ 映画が恋した音楽家』という作品ではまさしく「映画音楽を愛し、愛された映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネ」が描かれているんですが、今作は同じサクセスストーリーのはずがきわめて対照的。
「映画を愛し続けるも、映像に裏切られる」という描写が多く、彼の取った映像がきっかけで家族の知らなくてよかった真実を知ってしまうのですが、それにより彼の周辺はドミノ倒しのように崩れていきます。
それでも映像に向きあい続けるスピルバーグ監督の映像への狂気さえ感じる誠実さと情熱、これから見る彼の映画全てをより深く感じられるようにできる上半期で確実に重要な調査の1つです。
スピルバーグ監督のこれからの作品にもこの作品は貢献しますね。
調査結果:ファイルA+
7位 ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーvol.3
「お前らサイコー」と叫ぶ!
エンドゲーム後の世界で銀河を守っていたはぐれもの集団・ガーディアンズ。今作では敵の襲撃により命の危機にさらされたアライグマのロケットを助けるために彼の生まれ故郷であるオルゴ・コープの研究施設にガーディアンズの面々が乗り込むという話です。
ジェームズ・ガン監督が手掛け、アイアンマンやキャプテンアメリカなどの人気ヒーローが立ち並ぶ中「誰だこいつら?」という、世に出る前の反応が嘘のように多くのファンを獲得したGotGシリーズの最終章です。
ガン監督がDC映画の新リーダーになるということで、今作は彼のメインキャリアの清算ともいえる作品。そして「これぞガーディアンズ!」というのにふさわしいカラッとした終幕。
今作の敵、ハイ・エボリューショナリーの完璧な生命を生み出すという思想に、ロケットをはじめとした様々な動物が巻き込まれていく様子は、ペットブームの裏で選ばれず殺処分されてしまう動物の存在という陰の部分にもつながっている部分があり苦しくなります。
そして、GotGといえばな懐メロをふんだんに使った軽快さも健在で、あの曲にすべてが凝縮されていました。
また、今作までのMCUシリーズを通して培われた彼らの仲間としての暖かな雰囲気溢れる絆には「サイコー!」の一言。
特にネビュラもマンティスも、ガーディアンズを通して変わったなあと思わされました。
あれだけ刺々しかったネビュラはマルチバースの荒々しくなったガモーラに歩み寄る程丸くなり、物静かだったマンティスもあれだけ砕けた感じでメンバーに溶け込んでいるのが微笑ましく、シリーズの集大成を感じさせてくれます。
まさかアライグマに泣かされる日が来ようとは⋯。
調査結果:ファイルGALAXY
6位 逆転のトライアングル
ゲロ塗れの汚いタイタニック
豪華客船クルーズの旅の道中、海賊による攻撃で船が難波して無人島に流れ着いたクルーズのスタッフとモデルの美男美女カップルを描いた作品。
苦笑いが止まらない居心地の悪さと資本主義社会が齎す貧富の格差への風刺的色合いが絶妙な作品!私も性格が悪いからか主従関係がガラッと変わるこの作風がドストライク!
船の中は金持ちが権力を握り、持たざる者は金持ちの言いなりを続ける資本主義社会。しかし、船の沈没により船内の資本主義社会も崩壊し、今までの環境で力を発揮していたものが役にたたなくなり、力関係のピラミッドの大逆転は頗る痛快。
人を選ぶものの、ハマればクセになるおもしろさ!我々の調査では高評価です
まるで風刺画のような珍品です。
調査結果:ファイルA+
5位 スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース
全スパイダーマンへの宣戦布告
前作『スパイダーマン:スパイダーバース』からスパイダーマンとして戦う決意をしたマイルスが、前作で共闘したグウェンと再会。彼女が所属するマルチバースのスパイダーマンによる組織に迫り、スパイダーマンの宿命を知る事になり、その宿命に抗おうとするというお話です。
前作で既に色彩豊かかつ縦横無尽に動く重力を感じさせない自由な動きを魅せるアニメーションにより、コミックがそのまま動いているような感覚を実現してアカデミー賞長編アニメーション賞を受賞した作品の続編ということで期待は高まっていたものの、それを軽く超えてきた!
映像表現は前作から引き続き、果てしない物量で序盤から畳み掛けてきて、様々なスパイダーマンが出てくるという面白さもありながら、後半には「スパイダーマン」というシリーズ全体の構造に対するアンチテーゼとなっており、シリーズの橋渡し役ながらも唯一性の高い仕上がりのプロットに唸る。
続編次第ではあるものの、現段階ではこのシリーズ全体の流れの逆手を取った脚本の面白さと映像の完成度でランクイン。
歴代スパイダーマンへの宣戦布告!続編が待ちきれません!
調査結果:ファイルA+
4位 少女は卒業しない
卒業しても忘れない
廃校が決まった地方の高校で、卒業式を翌日に控えた4人の少女たちの卒業前夜と卒業式の日を描いた作品。
『桐島、部活やめるってよ』の朝井リョウさん原作の小説の映像化作品。
そういうだけあり、濃密な群像劇で4人の女子高生のたった2日間の出来事をエモーショナルに描く我々好みの青春映画になっておりました。
4人それぞれが取り壊しになる前の学校でやり残したこと、未練と向き合う様子にぐいぐいと感情移入してしまい、特に河合優実さん演じる山城のエピソードは大号泣。
このときの彼女がセリフ以上にしぐさや表情で感情を爆発させている演技が強く印象に残ります。
されど、他3人のエピソードも濃い。
友達が少なく、図書館だけが居場所だった文学少女の作田さん、軽音部の部長で中学の頃からの幼馴染にひそかに思いを寄せる神田さん、進路の違いで疎遠になってしまっていた後藤さん。
彼女らの恋路の繊細な心理描写も素敵なんです。
「帰る場所がないからこそ、しっかりと決着を。」それぞれの想いに胸が熱くなり、青春の甘酸っぱさを改めてぎゅっとかみしめることのできる作品でした。
因みに作田さんは『ベイビーわるきゅーれ2』で死体処理係に就職していましたね(同一演者)。
調査結果:ファイルA+
3位 BLUE GIANT
令和に蘇るJAZZ魂に熱狂せよ!
先に言います。我々はジャズに関する知識が全くありません。なんならこの原作についても噂程度でしか聞いたことがなく、公開前はあまり期待の高い調査であったわけではありませんでした。
しかし、蓋を開けてみると驚くぐらいにジャズに熱狂させられる。3Dグラの粗さ、展開の速さ、それも確かにあるかもしれませんが、あの時間、間違いなく我々はジャズにぶん殴られ続けていました。
この作品の主人公は天才高校生サックス奏者である宮本大なんですが、それ以上に彼とジャズバンドを組む玉田俊二と沢辺雪祈の物語に心揺さぶられる。
玉田はいわゆる初心者で、天才的演奏スキルを持っている宮本や小さい頃からずっとピアノを弾いてきた雪祈に圧倒的な実力差を感じてしまうものの、そこから何度も挫折しそうになりながらもがむしゃらに演奏に向きあい、初心者なりに2人に食らいつこうとする姿が心を熱くしてくれました。
そして雪祈もピアノに関してはかなりのスキルを有していたものの、プロからそれを「小手先のテクニック」と非難され、自分の演奏スタイルがわからなくなり挫折を味わうのですが、バンドを通してそれを克服するための答えを導き出す姿には思わず感動。
初心者の苦悩、自身の能力を信じていた者が直面するジレンマ、そうやって打ちのめされ、挫折を経験した人に刺さるストーリーを極上のジャズで見せてくれる令和のジャズ魂100%の傑作です。
ラストのライブはそんな彼らの叩きつける最高のジャズにしびれて脳がマヒします。
調査終了後、原作コミックを買いに走りましたが積み本状態。早く読まないと⋯!
調査結果:ファイルS
2位 アフターサン
優しく鋭い夏の思い出
とある親子のひと夏のトルコ旅行を淡々と描いた作品。
あらすじはざっくりこれだけ。親子の旅行を延々とみるだけの作品ですが、正直言って初見では「大した調査にならないな」と思っていました。
というのも目立った展開がなく、ずっと赤の他人のホームビデオを見せられているような感じで、感じ取るものも乏しいままエンドロールを迎えてしまったというのが大きな要因でした。
しかし、不思議なことに「嫌いか?」といわれるとそうでもなく、数日たってもこの親子の旅行の様子がフラッシュバックしました。
強烈な印象が残っていたイメージがなかったはずが、気づけば多くの人の感想を読み漁り賛否が分かれていても様々な視点からの感想はいろんな気付きをもたらして余計に頭に刷り込まれていく。
そうして行なった再調査ですが、この親子の結末を知っているからこそのやるせなさに序盤から目が潤まされました。
この作品は余韻の時限爆弾ともいえますね。この感覚は他の作品では出せないものがありましたので一気に上半期トップレベルの調査に。
心地よい映像、『underpressure』の絶妙な選曲とストロボ効果を効果的に使用した極上の映像、楽しそうな中に潜む寂し気な雰囲気と不穏な空気感はじわじわとこちらの心を侵食してきます。
トルコ旅行にぜひ行きたいです!
調査結果:ファイルS
1位 グリッドマン ユニバース
ユニバース級究極系ファンサマルチバース
怪獣特撮アニメ『SSSS.GRIDMAN』『SSSS.DYNAZENON』の2作品の世界に異変が起こり、いなくなったはずの怪獣が現れ、それぞれの世界がつながるマルチバースが発生し、その原因を探るというお話。
最近多いですよね~、マルチバース。「夢の共演!」を簡単に実現できてしまいますし。
MCUを筆頭にそういった作品が増えていき世間では「マルチバースは食傷気味」という声も聞こえてくる始末。
そんな中で声を大にして言いたい!「ファンを喜ばせるために作られた傑作マルチバースが誕生した!」と。
ウルトラマンを手掛け、怪獣とヒーローを描かせたら天下一品の円谷プロダクションが『プロメア』等の革新的アニメーションを生み出すTRIGGERとタッグを組み、世に送り出したアニメーション作品『SSSS.GRIDMAN』『SSSS.DYNAZENON』。
アニメシリーズも事前に調査はしていたものの、両方とも円谷プロとTRIGGERの良さが遺憾なく発揮されてはいるもののどこか不完全燃焼にも感じる終わりをした印象が強かったのですが、この映画がその不完全燃焼を焼き払う!
そこまでやるかのファンサービス精神ににわかも真正のファンも興奮する演出の応酬、オーイシマサヨシさんの『インパーフェクト』から『UNION』『UNIVERSE』への見事な継投。
そしてそんな全編が映し出すのは虚構を信じる人間だからこそ虚構を愛せるという、物語を全力で肯定するメッセージとそれを生み出すクリエイター賛歌。
作品への愛もさることながら、物語というマクロの愛を思い切り全身で浴びるとんでもないユニバース作品です。
特撮グリッドマンやアニメシリーズを踏んでなくても楽しめるかもですが、見ておくだけで感動が2乗3乗とされていくので、気になったらばぜひ!まずはアニメシリーズからのご視聴をオススメします。
これぞマルチバースの真髄です!
調査結果:ファイルU
最後に
以上が上半期調査上位のファイルのまとめとなります。
ほう、上半期は邦画実写はトップ10に入っているのはわずか1本なのか⋯。
確かに⋯。上半期はそもそも14本程度しか邦実写の調査がなかったというのも一因ですね。
違いない。下半期、期待の新作も多数だが、どれだけの調査が年末まで残るのだろうな。
これにて上半期の総括は終わりだが、下半期もまだまだ期待値の高まる調査は目白押しだ。
宮崎駿監督の最新作、ミッションインポッシブルシリーズの最新作、バービー人形の実写化や大人気スパイアニメの映画化作品。
どんな作品が年間ベストをかき回すのか⋯、みものだ。
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