※改めまして映画調査ファイルの区分はこちら。
グォ⋯ギェィエ⋯ゲガァ⋯。
どうした?今回の調査報告書に目を通すなり呻きだして。
神父を呼べェ⋯⋯!!!
!?⋯もしや、あの映画の影響で呪われたか?
早く神父を呼べェー!!ケケケケッ⋯!
まずいな。何か調査報告書に手がかりがあればいいのだが⋯。
『ヴァチカンのエクソシスト』
1987年7月、サン・セバスチャン修道院。アモルト神父はローマ教皇から、ある少年の悪魔祓いを依頼される。少年の様子を見て悪魔の仕業だと確信したアモルトは、若き相棒トマース神父とともに本格的な調査を開始。やがて彼らは、中世ヨーロッパでカトリック教会が異端者の摘発と処罰のために行っていた宗教裁判の記録と、修道院の地下に眠る邪悪な魂の存在にたどり着く。
ヴァチカンのエクソシスト : 作品情報 – 映画.com (eiga.com)より引用
あらすじはざっとこんなところ。
修道院の改修の立ち合いに来た一家の息子に悪魔が憑りついてしまい、それを神父が祓うという流れだ。
『ヴァチカンのエクソシストとは』とは?
- ガブリエーレ・アモルト神父の実話に基づく物語。
おそらく大勢の人間に馴染みのない悪魔祓いという世界観。逆に悪魔祓いを受けたことがあるという人がいれば、この映画よりも驚きだが。それはさておき今回は現実に存在したガブリエーレ・アモルト神父という方の実話に基づく話だという。
さて、このガブリエーレ・アモルト神父とはどんな人物だったのかついても少し報告しておこう。彼はイタリアのモデナで1925年に生まれ、2016年にこの世を去った。
彼の生涯の大きな功績はいわずもがな悪魔祓いだ。1954年に司祭に叙階された彼はエクソシストの第一人者の司祭に次ぐ立場となり、1990年には国際エクソシスト協会を設立し、2000年に引退するまでその会長を務めた。
そして、アモルト神父の功績で最も注目すべき点は生涯の悪魔祓いの数だ。彼は生涯で7万もの悪魔祓いを行なったというように主張しており、今作もその7万回の悪魔祓いの1つであるといえる。
悪魔祓いに人生をささげた、エクソシストの中のエクソシストといえよう。
因みにエクソシズムに関する著書も多数発表しているのだそうだ。
- ラッセル・クロウが魔を祓う!
今作の主役であるガブリエーレ・アモルト神父を演じるのは『グラディエーター』や『ビューティフル・マインド』等、多くの映画に出演し、アカデミー賞など賞レースも制した経験のある名優ラッセル・クロウだ。
彼は近年だと『ソー ラブ&サンダー』や、主演だと『アオラレ』などで映画に出演しているが、ホラー映画での主演は今作が初めてとのこと。
実際、ホラー映画への出演はトム・クルーズ主演の『ザ・マミー』で果たしていたが、本人はホラー映画を観るのも演じるのも苦手とのこと。しかし、本作のアモルト神父の生涯に興味を持ち、出演を承諾したのだとか。
ホラーの苦手な彼が興味を持つ神父の回顧録、実に興味深い。
- 続編も既に決定している。
今作については既に2023年4月に海外では公開されており、その4月段階で既に1800万ドルの製作費に対して5200万ドル、日本円に換算すると24億円の製作費に対して69億円の世界興行収入を収めているとのことだった。
製作費に対しておよそ三倍近くの興行収入で本作は興行的に十分な成功を収めていることもあり、ソニーは現在続編の製作を進めている。
続編でもガブリエーレ・アモルト神父についてはラッセル・クロウが主演を続投する予定でもあるとのことだ。
日本公開前から既に反響のあった作品という事もあり期待値も上がるな。
ここがすごい!
- 悪魔の名は
- エンタメ特化の悪魔祓いアクション
- 悪魔祓いの現実と赦すものが抱える過去
というわけで1つずつ見ていこう
悪魔の名は
確かアモルト神父は名前を聞き出そうとしていたな。おい、悪魔。名乗れ。
それで名乗るわけがないだろう!?この女を返してほしくば神父を呼べェ!!
今作は修道院を訪れた家族の幼い息子が立ち入ってはならない場所に入ってしまったことで悪魔に憑りつかれてしまい、その悪魔を祓うことが目的となっている。
そしてこの憑かれてしまった子供・ヘンリーの悪魔を祓うにはその正体をまずは明確にしないといけない。そう、そしてこの正体を暴く過程がエンタメとして上手い引き込み方をしてくる。
ヘンリーを助けに来る前に、アモルト神父は悪魔に憑りつかれたという青年の悪魔祓いを依頼されるのだが、その依頼を遂行するためにその悪魔に心理戦を持ち込み、豚に憑りついて見せろよと悪魔を煽り、豚に憑りついた瞬間にその豚の首を切り落とした。
これは悪魔を祓うエクソシズムというもので、悪魔に憑りつかれているという人の98%の原因は悪魔ではないという話があるので、この手法は滅多に使用されない。それゆえにこの後のシーンで彼は審議にかけられている部分があった。
そして、このエクソシズムには悪魔の名を知るという事が必要となってくる。先に述べた青年の悪魔はすぐに自分は「サタン」だと白状したのでスムーズに終わったのだが、ヘンリーに憑いた悪魔は名前を自分の口からは言わなかった。
これは階級が高い悪魔は賢く、簡単には名乗らないという事であると作中で述べられるのだが、その名前を解明するためにその修道院の謎に迫るミステリー要素に引き込まれるんだ。
悪魔の名前を知るために神父がもう一人の若手神父のトマースと共に修道院のことを調べる中で信仰の暗黒期や異端審問など闇の歴史についても掘り起こしていく様子はスリル抜群でとても面白かったな。
エンタメ特化の悪魔祓いアクション
ぐおぉ⋯!風か⋯!?今、投げ飛ばされた感覚が⋯。
これが悪魔の力だ⋯。お前を壁に叩きつけてやったのさ⋯。
バカな⋯。これはアモルト神父の実話ベースの話だったはず。
実話ベースのストーリーは実際の話に忠実になりすぎると映画としてみた時に退屈なものに映ってしまったり、ストーリーが出来すぎていると荒唐無稽なものに映ってしまってストーリーに乗れないという欠点があり、我々も観るのが苦手なジャンルだ。
近年では『さかなのこ』はその点ではさかなクンの実際のストーリーを浮世離れした感じも少なく、要点には忠実に沿って進行するため、このバランス感覚がウェルメイドな作品となっていて印象的であった。
だが、今作はそのバランスは壊滅的と言ってもいいぐらい壊れている。いや、わざと壊されていると言ってもいいのかもしれない。
アモルト神父がヘンリーの悪魔祓いをする様子は超常現象が息をするように起こる。
母親のベッドが変形し、彼女を飲み込もうとしたり、修道院の電気が点滅したり、神父が吹き飛ばされたりとにわかには信じ難い事が平然と起こる。
特にここの娘まで悪魔に取り憑かれた際、彼女が四つん這いになり壁にへばりつくシーンがあるのだが、『ミーガン』で観たあの光景に類似したものが見れるのだ。
実話ということを聞くと首を傾げたくなるようなホラーアクションが他にも多数あり、かなりエンタメに振り切った作品となっている。しかし、そこまでエンタメに振り切れるのは、次に述べていくこの作品の趣旨にあるのではないだろうかと俺は思うな。
「信仰」が薄れた世界へのミクロとマクロの警鐘
⋯!?思い出した。信仰だ!悪魔は信仰を持って制する。名前はまだわからないが、最悪ご都合的に何とかなるだろう⋯!
ぐ、グェオォォォ⋯貴様ァー⋯!信仰をやめろぉぉぉー⋯!
先程説明したように、今作は実話ベースにも関わらずあまりにも荒唐無稽に思えるホラーアクション満載で描かれている。おそらくここまでアクションが多いのは、今作が信仰にスポットを当てた作品だからではないだろうか。
先程も伝えた冒頭のエクソシズムのシーンの後、アモルト神父は修道院で他の神父たちから主席祓魔師の称号を返還するよう迫る審議会のシーンがある。
その時の神父たちの会話を要約すると、「エクソシズムなどという胡散臭いことはやめて、もっと信仰のために尽くせ」というようなものだ。解釈に齟齬があるかもしれないので、そこは申し訳ない。
だが、そこでアモルト神父はエクソシストの必要性と、自分はローマ教皇からの任で司祭となっているんだという事を力強く主張。
この場面で、超自然的存在を崇拝し、信仰を重んじる修道院の神父たちの中でも悪魔の存在は虚像に過ぎないものとなっていたことがうかがい知れる。
そして、今回子供に憑いた悪魔を祓うためにアモルト神父は、その母親にできることとして「何があっても信仰を続けてください」という指示をするんだ。
その時、母親は子供の頃に信じていた守護天使を信仰することで、悪魔と戦った。
このように今作では信仰の重要性をアモルト神父はずっと説いており、自分の過去との対峙に対してもその信仰の心を若手神父と合わせて乗り越えた。信仰は身を助けるという事を説く側面が強い。
だが、今回の演出が荒唐無稽なエンタメ寄りのものに脚色されていたのも、この「信仰」という部分を自分たちに今一度思考させるためのもののように思える。
これを劇場で見たときの俺はまさしく審議会にいた修道士と同じ、悪魔という脅威がどれほどのものなのか、そもそも存在しているのかという事を疑うぐらいに縁遠いものと考えているが、悪魔祓いをしたというアモルト神父の実績は健在であり、その内容すら知る人は少ない。
実話ベースをエンタメとする、攻めた作りにはなっているが、その根底にはこの荒唐無稽な話を「非現実的だ」と安易に切り捨てようとする我々の浅ましさをついてくるようでなんともむず痒い感覚を覚えることになった。
MIA的映画調査提案
- 『アオラレ』
2020年に公開された、ラッセル・クロウ主演のB級バイオレンス映画だ。
この作品でラッセル・クロウは主人公の子持ち女性を車1つで追い詰める怪物のような男を演じている。
クラクションを鳴らされただけで、女性に怒り狂い地獄の果てまで煽り運転を超えた悪質運転の様子は絶句必至。物理特化のモンスターな彼を見たい人にはぜひオススメな1本だ。
- 『哭声 コクソン』
村人が動機もなく家族を惨殺するオカルトじみた事件が横行するようになった不可解な村。その村を守る警官の娘が、殺人を犯した村人と同様の症状を発症し、凶暴化していくのを止めるためにその警官が奮闘する様子を描いた作品だ。
この作品も少女が理由不明の原因で凶暴化し、それがどんどんエスカレートしていくのだが、それを止めるために悪魔祓いをする描写があり、全編を通して悪魔が話に絡んでくる。
物語の性質としては終始こちらを疑心暗鬼にして混乱させつつ、人間の怖さも描くという違ったベクトルのホラーだが、アジアの悪魔祓いの雰囲気はまた違った魅力があるぞ。
- 『エクソシスト』
女優として働き、使用人も雇っている裕福な女性の一人娘である少女がある日悪魔に憑りつかれてしまう1974年代のホラー映画で悪魔祓い映画の先駆者的作品だ。
この映画のエキスがヴァチクソにはバチクソ注がれている。信仰による戦いや狡猾な悪魔が仕掛ける心理戦、憑かれた少女の変貌っぷり等をヴァチクソはやや劣るがバランスよく取り入れている。
とはいえ、こちらはフィクションであるものの正直ヴァチクソよりもアクションはおとなしい。実話ベースの方がアクションを盛りまくっているというのも俯瞰すればおかしな状況だな。
最後に
んんん⋯。あれ⋯?私、調査報告書を読んでる最中に寝ちゃいました⋯?
はぁ⋯、寝てたなんて生易しいものじゃなかったぞ⋯。お祓いに行った方がいい。
お祓い!?いやいや、確かに私たまに寝相が悪いとは言われますが呪われてるわけじゃないですよ!
あれを寝相で片づけることは100%無理だ。引きずってでもつれて行くから覚悟しろ
ヤダ―――――!!!
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